春の祭典
裏庭のフェンスをガサガサと揺らす物音に気がついたのは、もう夜も更けた頃。その日はちょうど眠れず、何度も目覚めてはまた床に沈んだ。
少し懐かしいくらいに古びた2階建てアパートの、すぐ裏はフェンスになっていて、その下は木立と崖だった。5メートル位の急斜面の下に、一段下の町が広がっていて、よく行く郵便局もそこに有った。
流石に若くて力盛りと言われる私でも、流石に身構えた。こんなことは2年という月日の中で、初めてだったからだ。
その訳あって、布団の中で5分程固まっていたが、少し無理して立ち上がってみる。
時は3:28を示していた。まだガサガサと金属の触れる音は続いている。
この部屋のすぐ裏だ!
カーテンを開ければ、その正体が見えるだろう。
そっと布に手をかけて、垣間見るとそこには。
若葉のなる木が折れて垂れ下がっていた。
それが春の嵐でカチンカチンと打ち付けているのだ。
私の脳裏には、妖精か幽霊のイメージがまるで浮かんでいた。
フェンスをトライアングルにして、これは春の祭典だったろう。