ロマンの細道

日頃考えていることを日記のような意味も兼ねて徒然に書きます。

2023-01-01から1年間の記事一覧

かすみ

葉巻屋の角から、黒いツヤの有る車が現れた。トム・ソーヤの河のような、緑と茶入り交じる海を横に、低い空冷の気筒をふかしていく。 それで零子は、まるで喫茶店クロスの紅白のチェックをまとういでたちで、ふしめがちにその運転台を見ると、勝山という彼女…

デリンジャー

金具を必要としていた。失くしたネジを買いに、山向こうの街へ出た。 ムラサキ色の大気が、故郷の湖に溶けている。列車311号の扉が開く。 次は「方便、方便」。いつまでも忘れている次の駅の名前。 エイブラハム・リンカーンが暗殺された日の新聞を見たこと…

春の祭典

裏庭のフェンスをガサガサと揺らす物音に気がついたのは、もう夜も更けた頃。その日はちょうど眠れず、何度も目覚めてはまた床に沈んだ。 少し懐かしいくらいに古びた2階建てアパートの、すぐ裏はフェンスになっていて、その下は木立と崖だった。5メートル位…

春風

いつ買ったかもう思い出せない缶詰を、手に取ってまた戻した。 この部屋を離れる。窓の外の柳が揺れているのが分かる。水色のアクリルをそのまま塗ったような空と、安っぽいアルミサッシのフレーム。 どれも光の波で反射しては輝きを放つ。 落書きのあるプリ…