かすみ
葉巻屋の角から、黒いツヤの有る車が現れた。トム・ソーヤの河のような、緑と茶入り交じる海を横に、低い空冷の気筒をふかしていく。
それで零子は、まるで喫茶店クロスの紅白のチェックをまとういでたちで、ふしめがちにその運転台を見ると、勝山という彼女の先輩であった男が乗っていた。
それで、零子のことを見るなりニタァと笑って、「今から学校か?」と言った。
「違うけど...、あなた関係ないでしょう」と冷たくあしらった。
勝山は少し黙ったあとで、「今から灯台の方へ行くんだけどよ、送ろうか?」と言った。
零子は確かに灯台の方を目指していたから、「なら、乗せていって」と答えた。
墨色のインテリアで、晴れた青の風景は、また妙にかすんだり、くんせいのように零子を取り巻き始めた。