春風
いつ買ったかもう思い出せない缶詰を、手に取ってまた戻した。
この部屋を離れる。窓の外の柳が揺れているのが分かる。水色のアクリルをそのまま塗ったような空と、安っぽいアルミサッシのフレーム。
どれも光の波で反射しては輝きを放つ。
落書きのあるプリントや、眠りながら書いた、読めない文字。見たこともない本物の原生のゾウの絵と、ミクロネシア旅行の妄想。
君の写真を下さい。どちらにしろ、忘れてしまうけれど。
缶詰は、先程の水色の反射をうけて、水面みたいに揺らぐ。
その中に封じられたみずみずしさを想う。
その味はわからない。みかんだと嬉しい。
いつかそのみずみずしさの中に骨をうずめるのだ。
そして柳の木の下で。